神戸大学発達科学部研究紀要Vol. 5(1):pp217-230, 1997.

日本女性と教育 ―近代日本女性教育倫理思想史(1)―

The Japanese Women and Education -The Japanese Women's Ethical Ideas in Modern Japan (1)-

布川 清司

神戸大学発達科学部人間環境科学科社会環境論講座


要 約

 本稿は、明治初年から1945年8月(終戦時)までの日本女性の教育に対するあるべきあり方、つまり、女性教育倫理思想史を考察するものである。
 日本では長い間、女性には教育は不要と考えられてきた。この考えは女性は学問などすべきでないという女性倫理思想に移行する。明治30年半ばまで一般的だったこの考えは、その後、女性も教育をすべきという考えに変わる。ただそれは富国強兵の国策に役立つ女性の養成ということであって、江戸時代以来の、明治初年に見られた女性自身の幸せのための教育ではなかった。国家のための女性教育は、女性の、強兵を生み支える役割から発想されたものであって、良妻賢母主義教育といわれる。それも昭和初年までの家族主義的良妻賢母主義とそれ以降の国家主義的良妻賢母主義教育とに分かれる。明治初年にあっては、自分のために勉強をしていた日本女性も、明治20年代以降の国家主義的教育の影響をうけて、やがて本気で国家のために役立つ人間になることを自らの勉強目標とするようになった。そしてそれが自らを不幸に陥れるものであることに気付くためには、1945年8月15日の敗戦の日を待たねばならなかった。
 本研究のオリジナリテイは、(1)近代日本における女性教育倫理思想史を初めてまとめた点、(2)明治初年の政府の教育思想が江戸時代の民衆教育思想の性格を継承するものであったと指摘した点、(3)女性にも教育が必要と信じて、熱心に学んだ女性を未発見の資料から多く発見した点などである。


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