小田 利勝
神戸大学発達科学部人間科学研究センター
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要 約
マレーシアの発展ぶりは、かつて日本に対して言われたように「奇跡」(miracle)という言葉で表現されている。そして、いま、マレーシアは、Second Outline Perspective Plan: OPP2(1991-2000年)とVision 2020(1991)の下で、高度産業国への飛躍をめざす発展計画Seventh Malaysia Plan(1996-2000)に基づいて21世紀へ向けた新たな発展政策を展開している。その計画書には、新たな「挑戦」とか新たな「戦略」という言葉が躍っている。本稿では、マレーシアの急速な発展の過程を概観するとともに、マレーシアの発展政策の特徴と経済成長について考察している。章・節構成を示せば次の通りである。はじめに/1.マレーシアの概況と人口の特徴/2.発展政策の展開-(1)マレーシアの独立と発展政策:発展政策過程の第一段階、(2)新経済政策(NEP)の開始:発展政策過程の第二段階、(3)公営企業とブミプトラ政策、(4)マハティールと発展政策、(5)外国資本の導入と経済発展:発展政策の第三段階/3. VISION 2020/4.第7次マレーシア計画とビッグ・プロジェクト:発展政策過程の第四段階-(1)第7次マレーシア計画と新しい発展戦略、(2)インフレ対策とマレーシアの発展政策、(3)「第7次マレーシア計画」の目的と政策枠組み、(4)ビッグ・プジェクトとマレーシアの高度情報化政策/おわりに。マレーシアの発展政策の特徴を一言でいえば、民族間の経済格差を解消して国民的統一を図るという独立以来抱えている課題と経済の世界化、自由化が進む中で、途上国から高度産業国へ発展を遂げていくという課題を同時に解決することを目的としていることである。しかし、そうした両面戦略による発展政策は、いま転換期を迎えている。強力かつ安定した政権のもとで絶大な政治力をもって発展政策を推し進めてきたマレーシアが、今後いかなる発展政策をとり、どのような社会変動を経験するか注目されるところである。