神戸大学大学院人間発達環境学研究科 人間環境学専攻 【博士課程前期課程】 社会環境論コース/【博士課程後期課程】 社会環境論分野
人間の発達と社会の発展への学際的アプローチ
今日,様々な分野で,人間の自由な発達が疎外される状況が生み出されています。たとえば「核兵器と戦争」「低開発と飢餓・人口爆発」「環境と生態系の破壊」「性や人種による差別」「 経済的合理性と管理主義による人間性の浸食」等です。それら一つひとつが,私たち人間が,自らの社会をコントロールできず,破局に向かってまっしぐらに突き進んでいることを教えているかのようです。しかしその一方で,このような矛盾にみちた人類社会を創りかえ,社会を本当の意味で「発展(development)」させていくのも,究極的には,やはり一人ひとりの人間の「発達(development)」とそれに基づく社会的営為,そしてその輻輳としての「類」的発達にほかなりません。今日ほど,人類が,自らの生存をかけ,これらの危機を作り出した自分自身をあらためて問い直し,自己変革=社会変革をすすめていくことが求められている時代はないでしょう。「社会環境論」とは,このような人間発達と社会発展の相互連関を根底的に解明することをめざした社会に関する新しい科学です。社会環境論では,こうした新たな科学を構築するために,経済学・社会学・歴史学・人文地理学・政治学・法律学・社会思想史学等,既存の諸科学の知見を十分にふまえつつ,さらにそれらの限界を突破してゆく学際的研究を行っています。
大学院生の声
多様な人のなかで,「自分」を再発見・再構築する旅
柏原理絵 さん(前期課程2 年生 )
社会環境論コースでは,年齢・国籍を越え,様々な人が志高く,日々研究に励んでいます。同じ年齢・同じ国籍の似通った経験を持つ人との交流が中心であった大学生の4 年間とは異なり,ここでは絶えず自分に「ゆらぎ」が与えられます。これまで「普通」と思っていたことも実は「特殊」なことであり,「なぜ」を説明できない体験をくり返すことで,客観的・構造的に考える力が身につきました。私はいま,多民族社会における異文化間での介護について研究しています。類似のテーマを研究する仲間はもちろん,たとえ全く別のテーマであっても,何かしら自分の研究と関わる部分があったり,研究方法や分析の枠組はとてもいい刺激になります。世界に,本当に自分に関係のないことなんてありません。いかに引きよせ,自分が学ぼうとするかだと思います。2年をどう過ごすかは自分次第。そして,それに応えてくれる環境がここには確かにあります。
スタッフとカリキュラム
スタッフと研究分野・研究テーマ
氏名 | 職名 | 担当 | 研究分野・研究テーマ |
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浅野 慎一 (あさの しんいち) | 教授 | 前期課程 後期課程 | 【社会文化環境論,社会学】 国境を越えて移動する人々を主な対象として,歴史に翻弄されながらも,自ら主体的に新たな歴史を創り出す諸個人の生活や行為について研究しています。 |
岩佐 卓也 (いわさ たくや) | 准教授 | 前期課程 - | 【社会政策】 新自由主義的な制度改革と社会編成が進行するなかで,雇用のルールはどのように変容してきているのか,賃金問題などを焦点に研究しています。 |
太田 和宏 (おおた かずひろ) | 准教授 | 前期課程 後期課程 | 【途上国政治経済】 グローバル社会の抱える諸問題を発展途上国に焦点を当てて研究しています。特に開発政策と政治構造のあり方についてを検討しています。 |
岡田 章宏 (おかだ あきひろ) | 教授 | 前期課程 後期課程 | 【社会規範論,イギリス統治構造論】 近現代におけるイギリス地方自治の形成と展開を検証しながら,この国の特質である住民自治をとおして公共性の内実と実現形態を検討しています。 |
澤 宗則 (さわ むねのり) | 准教授 | 前期課程 後期課程 | 【人文地理学,地域社会論】 グローバル化にともなう地域社会の変容,特に開発途上国インドの農村の変化,先進国の移民社会の形成について,人文地理学の視点から理論的かつ実証的に研究を行います。 |
二宮 厚美 (にのみや あつみ) [2012年3月末で退職予定] | 教授 | 前期課程 後期課程 | 【経済学,産業社会環境論】 企業社会と福祉国家の関係に関する国際比較にたって,現代日本で構想される福祉国家とそのもとでの人間発達の諸条件について研究しています。 |
橋本 直人 (はしもと なおと) | 准教授 | 前期課程 - | 【社会思想,社会学史】 近代の内在的批判を主題として,M. ウェーバーの社会理論の形成過程,またフランクフルト学派とポスト・コロニアル思想との連関を研究しています。 |
山崎 健 (やまさき たけし) | 教授 | 前期課程 後期課程 | 【都市地理学】 日本および中国の大都市・大都市圏の地域空間構造の形成と変容について,地理学的手法を用い,理論的・実証的両側面から考察研究を行っています。 |
和田 進 (わだ すすむ) | 教授 | 前期課程 後期課程 | 【憲法学,平和論】 近代立憲主義と平和主義の緊張関係について,日本国憲法の成立と展開,戦後国際社会の展開 (NationStateの展開) を通して研究しています。 |
主な授業科目と概要
【博士課程前期課程】 社会環境論コース
科目名 | 科目概要 |
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産業社会構造特論I | グローバル化のなかの現代資本主義の基礎理論を押さえ,教育・福祉問題,環境問題,自治体,福祉国家等の諸領域にまたがる対象を分析する。 |
都市地域構造特論I | 都市の地域構造に関する地理学分野における学術論文を講読する。地理学関連の学術雑誌の中から適当な論文を選び,それについて発表紹介・議論を行う。 |
農村地域構造特論I | グローバル化した世界の中でのローカルな存在としての地域の変容を,人文地理学や社会学の文献の輪読を通じて明らかにする。 |
国際社会構造特論I | 現在進行する開発や援助政策,さらに発展途上国の推進する貧困対策・社会政策に関する邦文・英文の文献を講読しながら,パラダイム転換,構造的変容の実態について検討を行う。 |
社会変動特論I | 近現代の社会変動を,特にポスト・コロニアル,グローバリゼーション段階における人口移動やそれに伴う文化変容との関連で理論的・実証的に考察する。 |
労働社会史特論 | 参加者の研究テーマを考慮しつつ,社会政策に関する文献を輪読する。2010 年度は日本の医療,年金,介護,生活保護についての新書を読んでいる。 |
憲法秩序特論I | 日本国憲法平和主義およびその現実の展開過程についての文献を講読し,考察していく。 |
比較社会規範特論I | 現代における社会規範の構造とその変容を,基本文献の詳細な分析と参加者による議論をとおし,公共性の形成と展開という視点から理論的に検討する。 |
社会環境思想史特論 | 社会思想の古典とされるテキストを輪読することで,現代の社会理論・社会像の根底にある哲学的・思想的前提を批判的に捉える基礎を学ぶ。 |
ヒューマンコミュニティ創成研究 | ヒューマンな環境形成の条件や前提,問題群等への理解を深め,博士課程前期課程での個別の専門領域での学習・研究のための基本的な視点を養う。 |
【博士課程後期課程】 社会環境論分野
科目名 | 科目概要 |
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*産業社会構造特論II | テーマは固定せず,その時々のゼミ生の研究テーマにあわせて運営するが,現代の資本蓄積と国家の役割が中心的研究課題となる。 |
*都市地域構造特論II | 日本・中国および西側先進国の大都市圏における地域構造の形成と変容に関連して,主にオフィス立地変動からみた都心部(CBD)の変化に注目して,理論的・実証的に検討を加える。 |
*農村地域構造特論II | 経済のグローバリゼーションと地域・空間・場所との関連性を,人文地理学と社会学を横断した観点から考察する。 |
*国際社会構造特論II | 発展途上国をめぐる従来の議論を前提としながら,今後の方向性につき受講者に創造的アイデアを出してもらう場をつくる。もちろん主張が学問的背景,実践的意義に支えられたものでなければならない。 |
*社会変動特論II | グローバリゼーション下での国民国家の変容,格差拡大,自然環境破壊,および,それらと相即した世界社会変動について,理論的・実証的に考察する。 |
*憲法秩序特論II | 近代立憲主義と平和主義との緊張関係を,世界の憲法史の展開過程の中で考察していく。 |
*比較社会規範特論II | 現代における社会規範の構造とその変容を,日英の地方自治を対象に,公共性の形成と展開という視点から理論的かつ実証的に検討する。 |
*教育能力養成演習 | 大学教員としての教育能力・教育資質の開発を目指し,指導教員の指導監督のもとで,専門領域の基礎的内容を取り扱う学部の講義科目の「模擬授業」を実施する。 |
修了と進路
修士論文テーマ
社会環境論コースの修士論文テーマをご覧ください。
主な進路
社会環境論コース 修了生の進路 (神戸大学大学院人間発達環境学研究科博士課程前期課程人間環境科学専攻)をご覧ください。
専修免許の取得状況
社会環境論コース 資格免許の取得状況をご覧ください。
コースサイト
Updated: 2011/06/24 (Fri) 16:30