高校と共に授業を作る ~県立明石清水高校「科学と人間」コース~: 報告1
飯田 広史 (人間発達環境学研究科 人間環境学専攻 自然環境論コース)
活動内容
1. 講義: 「環境問題の見方」
講義の様子
- 日時
- 2008年11月13日
- 目的
- 環境問題の現状と、それを理解するためにはどうしたらいいか、また自分で調べる方法などを知る
- 内容
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環境問題とは
- → 環境問題の定義
- → 歴史 (古代文明における環境問題からロンドンスモッグ、地球温暖化まで)
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メディアを通した環境問題の見方 (地球温暖化に話を絞って)
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→ 地球温暖化に関するクイズ
- 一般に常識と思われていることを科学的な見地で改める
- → 環境問題を取り上げたTV番組を見てもらい、科学的には非常に偏った報道をしているということ (メディアバイアス) を認識する
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→ 地球温暖化に関するクイズ
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環境問題を多面的に見る (逆説や反論などが世の中には溢れていることを知る)
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→ 著書やHPなどを紹介し、それぞれがどのような主張をしているのか?
- 地球温暖化においては一般的に思われている常識だけではないことを知る
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→ 著書やHPなどを紹介し、それぞれがどのような主張をしているのか?
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最も確からしい結論 (IPCC第四次報告書)
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→ 地球温暖化に関して、混沌とした状態であるということを認識したが、それではいったい何を信じればいいのか?
- ひとつの答えとして気象庁が作成したIPCC日本語訳を紹介した
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→ 地球温暖化に関して、混沌とした状態であるということを認識したが、それではいったい何を信じればいいのか?
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自分でデータを取得して調べる方法
- → 気象庁、環境庁などにある環境問題に関するデータベースを紹介
- → そこから各自データをダウンロードして、『世界平均気温は大気中のCO2濃度に比例する』という最も単純なモデルで解析を行う (時系列のグラフ、散布図、最小二乗法による定式化)
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環境問題とは
2. ゼミ: 「地球温暖化を考える」
ゼミの様子
- 日時
- 2009年1月15日、1月22日、2月5日 (発表会)
- 内容
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- IPCCの第四次報告書をすべて印刷していき、参考資料とした。また、図書館のPCも活用した。
- 地球温暖化を調べようといっても、何を調べたらいいのかわからないので、あらかじめ調べる項目を書き出しておき、その中から3~4テーマを選ばせた。その後2人1組で各自調べ学習を行った。その際に注意すべき点、これだけは理解して欲しい点、発表するときは強調して欲しい点などは要所要所で指摘した。
- ゼミの時間は2日 (4コマ) しかなかったので、3コマを調べ学習、1コマを模造紙に書き出す時間とした。
感想
はじめてこの明石清水高校と授業を作るというお話を紹介されたとき、僕はチャンスと思いました。僕は教員志望であり、教育現場を知るいい機会だと思ったからです。それと同時に、高校生を相手に扱ってみたいと思っていたテーマが浮かんでいました。それは『特に環境問題においてはマスメディアを鵜呑みにしてはいけない』ということです。
実は僕自身も学部3年のときに、ある授業で具体的な例とともに上記のような話をされて、衝撃を受けた経験があります。環境問題に興味を持っていた僕はこれをきっかけに、自分がこれまで常識だと思っていたことは科学的には本当に正しいのか?と疑う心を持ち始めました。それまであまりにも無防備に情報を得ていたということに気付いたのです。
このようなことを高校生の段階で気付いて欲しいと思い、最初の講義に望みましたが、感想を読んでいると『目から鱗だった』という感想とともに、『何を信じたらいいのかわからなくなった』という感想もありました。大学院生がわざわざ来て、普段の授業 (学習指導要領内) では問題提起すらされないことを語っていったのですから、混乱する生徒がいてもおかしくありません。講義中にはそうならないように意識はしていたのですが、自分自身の至らなさが感じられました。
このままでは未消化の生徒たちが多すぎると感じ、続くゼミのテーマも地球温暖化ということにしましたが、ここでの主体は生徒自身であるので僕は必要最低限の助言しかしませんでした。しかしゼミの時間が少なかったので、ただの調べ学習のような時間になってしまったのは少しもったいない気持ちです。もう少しこちらのほうで問題や課題を設定しておけば、少ない時間でも高度なことができたのかもしれないと反省しています。
発表会の様子
しかし反省している僕とは裏腹に生徒たちの発表準備は着々と整い、発表の日。
僕にとってほかのグループの発表は自分の専門分野とは違っていて、非常に興味深い内容でした。一方僕のゼミの生徒は「この点は強調してね」と言った部分さえ、緊張のためかすべてすっ飛ばしていましたが、『自分で調べて発表の行う』ということの難しさを身に染みて感じていたので、とても良い機会になったのではないかと思います。僕自身としても高校生という年代に授業を行うという機会は非常に貴重だったと思っています。
一つ面白いエピソードを挙げておきますと、最終日に生徒たちが発表をしているときのことです。
僕のゼミの生徒の発表後、質疑応答の時間に「海面上昇って、結局何が原因なんですか?」という質問がありました。班の生徒は少し考えた後、その答えとして「地球の気温が上昇することによって、海が膨張するからです」と答えていました。IPCCの報告書を軸に、温暖化について調べさせていたので、僕は「ちゃんと答えられて良かった……」とホッとしたのですが、授業が終わった後、明石清水高校の英語の先生や授業を取材に来ていた神戸新聞の記者さんとお話をしていると「あの答えには笑いそうになりましたよ」と言っていました。どうやら生徒たちが苦し紛れに答えたと思ったようです。生徒たちの名誉のために「そういう報告がIPCCという国際機関から出ているんですよ」と訂正しておきましたが、こういった常識と科学的結論とのズレを認識することが、僕が高校生たちに伝えたいことでした。
少なくとも僕のゼミの生徒たちは、そのことに気づいてくれたのではないかと思っています。
Updated: 2009/04/21 (Tue) 16:02