地域コミュニティの科学活動への支援
伊藤 真之
(所属: 人間環境学専攻 環境基礎論講座、研究分野: 宇宙物理学・科学教育)
1.はじめに
現代の社会は、「高度科学技術社会」、「知識基盤社会」などと特徴づけられ、環境問題などに取組む上でも、科学が重要な役割を果たします。その一方で、人々の科学技術への関心の低下が問題となっています。
私たちの研究科には、地域の環境問題の研究など、地域社会に関わる取組の蓄積がありました。これを活かし、新しい時代に即応したシステムとして発展させたいという願いから、2005年、ヒューマン・コミュニティ創成研究センターの発足を機に市民科学への大学の支援の在り方を実践的に研究するプロジェクトとして取組を始めました。課題解決型の取組に加えて、「文化としての科学」の地域コミュニティへの広がりも重視しています。
2.サイエンスカフェ神戸
スーパー・コンピュータをテーマとしたサイエンスカフェ
会場は三宮の喫茶店
まず、市民と科学者などの専門家の対話の場として、2005年から「サイエンスカフェ」を始めました。カフェなどのカジュアルな場で、科学者と市民がカップを片手に科学に関する話題を語り合う双方向コミュニケーションの試みで、イギリスとフランスで始められたものです。現在では日本でも数多く開催されています。地元灘の酒蔵を改修した木造のホールを始めとして、特徴ある喫茶店、博物館のカフェ、美術ギャラリーなど、地域のさまざまな魅力ある会場をお借りして開催を続け、最近70回を数えました。
2007年からは、「大学コンソーシアムひょうご神戸」と (財) ひょうご科学技術協会が主催する「サイエンスカフェひょうご」の企画・運営をお手伝いしています。年に5、6回程度のペースで、これまでに、西宮、尼崎、豊岡、篠山、洲本、明石、姫路など県下の各地で開催してきました。
3.神戸大学サイエンスショップ
2007年度には「神戸大学サイエンスショップ」が開設され、自然環境論コースの教員を中心に取組みが始まりました。サイエンスショップはヨーロッパで生まれたもので、科学に関わる社会の課題について相談を受け、助言や、調査・研究を行う機関として大学などに設置されています。神戸大学のサイエンスショップは社会や学校における広い意味の科学教育への支援も重要な取組みとし、学生、大学院生も活動に参加しています。これまで、サイエンスカフェの企画・運営の他、南あわじ市のシカの被害への取り組みとコミュニティづくりへの支援、理科実験教室や天体観望会の開催、小規模ビオトープづくり、兵庫県生物学会と協力した高校生の研究発表会の開催など幅広い活動を展開してきました。
サイエンスショップは2009年度に発達支援インスティテュートの一部門として位置づけられました。これらの取り組みは、持続可能な発展のための教育 (ESD) のフィールドとしても活用されています。
4.ひょうごサイエンス・クロスオーバーネット
これらの取組みの発展として、2008年度には、(独) 科学技術振興機構「地域ネットワーク支援」を受けて、兵庫県における科学コミュニケーション関係者のネットワーク「ひょうごサイエンス・クロスオーバーネット」が発足しました。連携自治体としての兵庫県のほか、兵庫県立人と自然の博物館など、現時点で約20の機関が参加して活動を進めています。
5.むすび
科学が人々の日常の生活に根づき、専門家と市民の対話と協働が行われる地域社会づくりへの貢献を目指してゆきたいと思います。
Updated: 2010/07/23 (Fri) 13:57