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連続時系列の応用研究へ


阪本 雄二

(所属: 人間環境学専攻 環境基礎論講座、研究分野: 数理統計学)

私の専門分野は、時系列と呼ばれる時間経過とともに観測されるデータの統計的解析法 (時系列解析) の開発である。時系列データと言っても、一定の時間間隔ごとに観測されるもの (離散時間時系列) と時々刻々と観測されるもの (連続時間時系列) に大別されるが、私の扱うものは後者である。

連続時系列に対しては、統計的解析法以前に、その確率的な性質そのものの興味深さゆえ、近年では特に数理ファイナンスと呼ばれる数学の分野で盛んに研究されており、さらに、その経済活動への無節操な応用が活発に行われてきたことは、昨今の経済危機に関する報道で周知の事実である。数理ファイナンスにおける諸結果が、現実世界において魔法のごとく信じられ、統計的な信頼性に裏打ちされることなく応用されたことが、問題の一つではないかと思われる。

一方、1990年台初頭に、数理ファイナンスの分野での主な道具である無限次元解析が、数理統計学における日本の伝統芸とも言える高精度信頼性評価と結びつき、連続時間時系列の統計的解析法に関する研究が、東京大学数理科学研究科や統計数理研究所の研究者を中心に活発に行われるようになってきた。そこでは、従来の同一の実験条件で繰り返し観測されるデータに対する統計手法と同様の方法が、依然として有効であることが確認され、さらに、連続時系列の観測条件独特の問題である、サンプリングや欠測の問題など、従来の道具立てでは解決できなかった問題への多くの成果も得られるようになった。

私は、1990年初頭からその研究グループに参加させていただき、連続時間時系列に対する高次漸近理論と呼ばれる、高精度信頼性評価法の基礎研究にたずさわってきた。また、連続時間時系列の統計解析の研究が盛んなヨーロッパの研究者の会議DYNSTOCHに、日本からの参加を特別に許可され、日本人グループの一員として参加し、研究成果を発表してきた。さらに、Statistical Inference for Stochastic Processes、Annals of the Institute of Statistical Mathematics、 Journal of Multivariate Analysisなどの学術雑誌において、連続時系列に関する論文を中心に、数理統計学全般の諸結果に関する論文審査にかかわってきた。もっぱら基礎研究を行ってきた私にとって、あえて社会貢献を探すなら、このような共同研究や論文審査、および、学会活動への参加であろうか。

Updated: 2010/07/23 (Fri) 13:45