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身体運動制御と子どもの遊び


河辺 章子

(所属: 人間行動専攻 人間行動論講座、研究分野: 運動生理学)

私の専門分野は、身体運動制御 (Motor Control)、つまり、ヒトの身体運動がどのようなメカニズムで発現しているのかということを解明しようする分野です。

この分野はいわゆる運動・スポーツ科学の中でも扱う人は少なく、世間的にはあまり知られていません。運動は身体で行うものであり、技術はからだが覚えるものと思われることが多く、ヒトの運動のすべてが脳や脊髄 (=中枢神経系) によって制御されていると説明しても、俄かには信じがたいといった反応が一般的です。

また、運動というと走・跳・投などの基本的な動作やさまざまなスポーツを思い浮かべがちですが、眼球運動、顔の表情、口・舌の動き、喉頭の筋の動きなども手足とほぼ同じ仕組みで動いていますので、広義にはこれらもヒトの随意運動に分類されます。しかし、言語を発することや眼を動かすことを運動だと説明なしに言うと、ほとんど受け入れられることはありません。私たちは多くの場合、意識せずに身体を動かしているため、「勝手に身体が動く」、「筋肉が勝手に身体を動かしている」というように思い込んでいるのです。

このような無意識に身体を操ることができる能力を私たちはどうやって身につけるのでしょうか?

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図: ヒトの運動発達のピラミッド

私たちは自分の意志で移動することができない状態で生まれてきます。そこから約1年で直立二足歩行を獲得し、徐々に走る、跳ぶなどのダイナミックな運動や、物を握る、言葉を話すといった小さな筋の精細な動きまでの基本的な動かし方を学習していきます。就学頃までにこれらの基本的な動作が十分に獲得されていますと、その後のもう少し高いレベルの運動が容易に獲得できるような仕組みになっています。幼児期に多くの運動パターンを経験し、学習し、記憶しておくことが非常に重要なのです (図参照)。

また、運動に関与する脳の領域はとても広く、運動をすることで脳全体が活性化されます。発達途上の子どもたちの脳にとって、運動は非常に有効な刺激となるわけです。それなら多くのスポーツを子どもに経験させようと、いろいろな種類のスポーツクラブで指導を受けるというやり方も見受けられますが、就学前の子どもたちなら、クラブなどでの強制的な練習よりも、子ども自身が心から楽しめること―つまり、『遊び』の中からさまざまな基本的運動を自然に学んでいくことが大切だと考えています。一見、運動に関係がないように思われる遊びにも、基本的な運動の要素が多数含まれています。楽しみながら知らず知らずのうちにさまざまな運動プログラムが脳内で構成されて、次の段階の運動の獲得が容易くなっていくのです。

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自由な発想で斜面を利用して遊ぶ子どもたち
(斜面にいることだけで、知らないうちに平衡感覚を養っている)

このようなお話を、機会があれば幼稚園などでお話させていただいています。最近では、11月に附属明石幼稚園で開催された幼児教育を考える会 (今年度テーマ: 子どもにとっての遊びの意味を問い直す) で「運動的な遊びの意味を探る」というテーマでお話をさせていただきました。

このような運動の仕組みに関する知見を少しでも多くの方々に知っていただき、運動やスポーツの学習や指導に少しでも役立てていただくことが私の社会貢献のひとつだと思っています。

Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:06