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「音楽を考える」磁場から広がる多層的なコミュニケーション


大田 美佐子

(所属: 人間表現専攻 人間表現論講座、研究分野: 音楽史・音楽美学)

1. オーストリア、ウィーンでの取り組みを経験して

音楽を通じた社会貢献に関しては、ウィーンでの留学体験が私に重要な意識変革を促してくれた。留学時期がちょうど20世紀と21世紀の世紀転換期に重なった幸運もあり、マーラー、クリムト、フロイト、シュニッツラー、ヨハン・シュトラウスなどをはじめ、華麗な偉人達に彩られた世紀末文化を回顧する様々な催しで、ウィーンの街中は年中フェスティバルという状態にあった。それらの催しが文化行政に関わる学識経験者やプロデューサーたちの強力なリーダーシップによって、いわゆる「お祭りごと」の打ち上げ花火に終わることなく、学識者、学生、一般市民、観光客などを相互に結び付けるための場を提供し、その地道な努力によって結果的にウィーンという都市自体の「文化力」を蓄積していくというプロセスに学んだことは大きかった。音楽を通した文化力の広がりとは、プロフェッショナルのみだけで形作られるのではない。時代を共に回顧し、音楽を通して今という豊かな時間を感じる喜びを分かち合うことが重要なのである。

2. ローカルな音楽としてのクラシック、そして地域との交わり

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2003年に神戸大学に着任してから、音楽を通じて地域の方たちと交流をする様々な機会を与えて頂き、微力ながらウィーンで感じたことを生かしたいと願っている。クラシック音楽は、芸術としての「普遍性」や「国際性」もあるが、元来ローカルな伝統芸術であるという側面を見過ごされることが多い。そのギャップを埋めるには都市と音楽の結びつきを軸に様々な角度から知識を深め、音楽を聴きながら考えて頂くことで音楽の観賞力が高められるように思う。神戸市シルバーカレッジでは、ウィーンという都市を中心に西洋音楽史を講義する機会をもった。びわ湖ホールZプロジェクトという企画では、ツェムリンスキーのオペラ≪こびと≫の上演に先立ってシンポジウムや関連するコンサートを通じて作品の「多層的な理解」を目指しているプロジェクトに参加させて頂いた。シンポジウムでは埼玉大學名誉教授の三光長治先生、立命館大学の仲間先生、神戸大学国際文化学部の藤野先生とご一緒させて頂き、私自身大変勉強になると同時に、その盛況ぶりに文化への関心をあらためて認識し目を見張るものがあった。また、大阪の城東区カルチャーサロンでも都市を中心に音楽史を語るシリーズで「ベルリンの芸術キャバレー」というテーマでお話させて頂いた。西洋音楽と都市の関係は、都市と音楽の在り方として日本の文化力の問題にもフィードバックできるテーマだと思っている。音楽に対する一般の社会人の方々のもつ「楽しみたい」「もっと知りたい」という素直な気持ちに裏付けられた情熱には、こちらが啓発されることも多い。大学の外での社会貢献とは、大学と社会との双方向のコミュニケーションを構築する貴重な場であると実感している。

Updated: 2009/09/17 (Thu) 12:09