住宅再建の手伝い
平山 洋介
(所属: 人間環境学専攻 環境形成論講座、研究分野: 住宅・都市計画学)
「私はこんな社会貢献をしています」という原稿を書くように、との依頼。教員全員が書くことになっているのだそうで、ほとんど業務の一環。研究者が研究成果をアピールすることは大切だし、そういう機会は頻繁にある。でも、「社会貢献」のアピールという仕事にはちょっと違和感を覚える。「競争と評価」という改革標語のもとで大学の自己宣伝業務が増大した。そういえば、就職活動中の学生も自己アピールの訓練に勤しんでいる模様。自己顕示の時代が到来したのかな?
業務として何か書かないといけないので、地味な話しを書いておく。震災復興での住宅再建の手伝いの話し。ある街区のグループから住宅再建の相談を受けた。たくさんの住宅が倒壊し、4名の方が亡くなった。現場に行って調べると、敷地が狭い、接道不良 (建築確認が得られません)、おまけに借地……といった具合で、個別再建は不可能で、したがって、共同再建 (みんなの敷地を一筆にまとめて、集合住宅を建てる) しか打つ手がない。それで、共同再建に取り組むことになった。でも、共同再建も不可能に近いと内心で思った。借地がやっかいだし (これはもう、ほんとにやっかいです)、資金調達やら設計やら、課題が多すぎる。先行成功事例はほぼ皆無。
じっとしていてもどうしようもないので、毎週集まって勉強会しましょう、ということになった。専門家チームでみなさんにいろんな話しをして、ささやかな飲み会をする、というだけの話し。でも、仮設住宅から出てきて、集まって、よもやま話しをするという活動は、地震直後の凄惨な状況のなかで、ちょっとした息抜きになったと思うし、「ひょっとしたらなんとかなるかも」という気分を生んだ。でも、専門家側は焦った。どうにもこうにも、未経験の事態なので、どうしたらいいのか、ぜんぜん分からない。私たちの仕事は、内心で「このプロジェクトは激烈に難しい」と思いながら、住民のみなさんには「なんとかなりますよ」と言い続け、ビールを飲んでニコニコしていることだった。専門家だけの裏舞台のミーティングでは「困った、どうしよう」の繰り返しだった。毎週の勉強会・飲み会がえんえんと続き、ずっとニコニコしているのも、けっこう辛かった。
この仕事は、時間がかかったけど、結局、成功した。ひょんなことから突破口が見え、あちこちからアイデア・技術・助力をかき集めた。借地・敷地・接道問題をうまい具合に整理したし、国の補助金も取ったし、完成した建物もチャーミングだし (私の先輩の設計です)、業界筋から注目され、「アクロバット」「画期的」と評された。でも、再建が成功した最大の要因は、被災住民のみなさんが子どもの頃から何十年もいっしょに住んでいて、お互いにきちんと話しができた点にある。それから、技術的に派手なプロジェクトの長い助走として、勉強会・飲み会を続けたという地味な活動が、実は少しは役に立ったかも、と感じる。
復興の仕事をした人たちは、「社会貢献」とかいちいち言わずに、黙って、走り回って、やれることをやっていた。ハンナ・アレントが「善き行いは不可能である」と書いたのは、「善き行いは、口にしたら、善き行いではなくなる、だから、善き行いが人に知られるのは不可能である」という意味である (うろ覚え引用)。「社会貢献」のアピールは慎みましょう。自身の仕事が社会に貢献したかどうかは、自身ではなく、他者が評価すべきもので、いちいちアピールしなくても、評価はいずれ下される。
Updated: 2009/09/17 (Thu) 12:09