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取材協力


寺門 靖高

(所属: 人間環境学専攻 環境基礎論講座、研究分野: 環境地球化学)

大学教員の社会に対する貢献は、大学での教育と研究が基本であろうと思うが、とりあえず昨年あった取材に関することを記す。

韓国のソウル放送から六甲山の地質について聞きたいとのことで取材に来られた。六甲山で約3週間遭難し、“焼き肉のタレ”で奇跡的に生還した人の件であった。その当時は、焼き肉のタレで助かったのではなく、体温が下がって冬眠状態になっていて助かったようであると報じられていた。しかし、ソウル放送では、硫化水素を吸うと冬眠状態になることがあるらしく、この人物が倒れていたところで硫化水素が発生していてそれを吸ったために冬眠状態になっていたのではないかと考えているとのことであった。実は、根拠があって、米国の研究者らがサイエンス誌に論文を発表しているとのことであった。すなわち、マウスを、80ppmという微量の硫化水素を混ぜた箱のなかに置いたところ冬眠のような状態になり、もとの部屋に戻すとまた普通に活動しだしたということである。硫化水素は有毒であって温泉や火山の近くでは硫化水素を吸ってしまい事故になるケースもたまにはあることで、遭難した場所の近くには有馬温泉や鉱泉があるので硫化水素が発生していてもおかしくはない。また、有馬温泉には「虫地獄」などガスが出ているところが実際にある (ただし、多くは二酸化炭素)。取材はそのような六甲山の地質や硫化水素のことであったが、何分ソウル放送のことであり実際に番組で使われたかはさだかでない。

写真
六甲山の花崗岩 (御影石)

六甲のおいしい水の件で、神戸新聞から取材に来られた。すなわち、公正取引委員会が景品表示法違反でハウス食品株式会社に排除命令を出した件である。公取委の主張は、2リットルボトルを製造する六甲工場が神戸市西区にあり、商品の容器にあたかも花崗岩のミネラル分が溶け込んだ水であるように受け取れる記述があるが、西区は基本的に花崗岩地域ではないことが問題であった。これについて学術的見解を取材に来られたわけである。実は、私の研究室では六甲山系ならびに周辺地域の河川 水や地下水の水質と地質との関連の研究を行っているので、西区の地下水の水質についてもそれなりのデータを持っていた。それらでは、神戸市灘区の500mLと1.5L用の採水場周辺の地下水の水質と西区の六甲工場周辺のものとの違いは明瞭であった。

桂離宮の庭石などに御影石が多く使われており、桂離宮を整備造営した八条宮家の智忠親王が有馬温泉へ湯治に来た時の日記には、自ら河原で飛び石を見立てたと記されているらしい。桂離宮を扱うNHKの番組で、石工 (伝統工芸士) の西村金蔵さんに桂離宮の庭石に使った御影石の産地である住吉川 (六甲山中) で、石の見立てを紹介してもらうということで、乾石材店の方々と撮影に同行した。御影石は大学の近くの御影から住吉の山手で産出していた石を、大学の横の石屋川の河口から船積みしたものである。御影石は、岩石学的には花崗岩であるが、古くから石材として有名で、例えば黒御影 (斑れい岩) など花崗岩でない岩石まで「みかげ」と呼ぶようになったものである。花崗岩はだいたい白っぽい石であるが、本来の御影石は桃色をしたカリ長石が美しく貴族に好まれたのではないかと思われる (A棟玄関内の上がり口の段差のところの石を参照)。住吉川は断層地帯でかなり大きい谷状になっている。また、川沿いに崖錐や段丘堆積物があり、それらに御影石の礫が多数含まれている。それらも含めて住吉川の谷底に飛び石や石垣に使えそうな御影石がたくさん溜まっており、まるで貯石場と言ってもよい様相を呈していることが歩いてみると良くわかる。以上

Updated: 2009/09/17 (Thu) 21:52