本ウェブサイトは2012年3月末をもって閉鎖いたしました。このページに掲載している内容は閉鎖時点のものです。[2012年3月]

NPOが主役の教育プログラムとは? ―「ESDボランティア塾ぼらばん」の実践


松岡 広路

(教育・学習専攻 人間形成論講座)

写真

2007年の夏から五年計画で、「ESDボランティア育成プログラム推進ネット「ぼらばん」」という事業を、阪神間の多様なNPOの協力を得て実施しています。ねらいは、ESD (持続可能な開発または社会づくりのための教育) につながる一連の学びを、学校外のリソース中心に創出し、学校・家庭にならぶ第三の教育フィールドを創成しようというものです。

「ぼらばん」では、高校生・大学生数人がひと塊の「群れ」となって多様なボランティア活動に参加します。そこで期待されるのは、まず、多様なフィールドにおける多様な活動を通して、または現場の多様な人たちとの交流を通して、学生たちが、ボランティアにどんな意義があるのか、社会的問題はどこにあるのか、どのような解決策が取られているのか、どうすれば当事者中心の総合的な解決につながるのかなどを、「群れ」のなかで相互に批判的に考えること、そして次に、それらをふまえて自分自身のありよう (生き方・態度・振舞い方) を主体的に定めていくようになること、そして最後に、他者との連帯のなかで「ほんまもん」のボランティア者として活動していくことです。

いわば、「ぼらばん」事業で、学生たちが「一定の信頼関係によって結ばれた『群れ』として課題の渦巻く現代社会を練り歩く」ということを通して、未来に向けてどのような活動をしていけばよいのかを見極めることができるようになれば、と思っています。

他方、NPOの教育力を具体化させ、新しいNPOのつながりが生まれるきっかけになることも、副産物として期待するところのものです。ESDでは、Think globally、Act locallyが標語とされますが、実際には、なかなか広範な視野をもちながら市民活動団体が連帯的に動くということはありません。この事業の推進を通して、「ESDを進めていくのはNPOとその連帯的な組織に他ならない」という機運が高まれば、とも思っています。

今年度は、プロジェクトの初年度ということもあり、協力団体は、内部組織の「のびやかスペース あーち」を含む14団体しかありませんでした。また、スタッフとして参加してくれた大学生・大学院生は20名程度 (他大学学生3名) で、高校生はわずか8名 (現在は11名) という小規模でのスタートとなりました。

写真

しかし、実践を試行することで、大きな収穫を得ることができました。それは、こうしたインフォーマルな素朴な実践活動こそが、さまざまな工夫やフォーマルな活動を派生させるということです。多様な団体を練り歩く中で、学生たちは、「群れ」をさらにまとまりのあるものにするために、自発的に交流会やイベントを企画するようになりました。また、ESDやボランティアへの関心を深め、自らセミナーや勉強会の必要性をうったえるようにもなりました。さらに、NPOや市民活動団体も、「どのような受け入れ方が大切なのか」を真剣に考えてくれるようにもなりました。「ぼらばん」は、<ジェネシス (創成) プログラム>ではないかと思います。

たしかに、大学が学外のNPOと連携して事業をすすめることの難しさや、スタッフや大学生たちのコンフリクト (葛藤) を正のエネルギーに替える困難さを、いやというほど、思い知らされています。また、事業設計も常に変更しなくてはならないという不安定さがあります。しかし、課題をひとつひとつ克服し、理想を追い求めながら、徐々にESDの基盤づくりを進めていきたいと思っています。

Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:03