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神戸市立小磯記念美術館での教育普及活動参加


勅使河原 君江

(心身発達専攻、人間発達論講座)

写真
神戸市立小磯記念美術館で
勅使河原ゼミの学生が、子どもを対象とした
対話型鑑賞学習の練習をしている様子

私とゼミ生は、神戸市立小磯記念美術館 (以後、小磯美術館と略す) で、子どもとの美術教育普及活動に関わらせていただいている。

小磯美術館では、子どもを対象としたさまざまな鑑賞活動を行っている。その中でも、私たち勅使河原ゼミは親子で参加できる美術鑑賞活動や小学校からの美術館訪問の際のギャラリートークのスタッフをしている。4年のゼミ生はギャラリトークのファシリテーター (対話を促進する役割。美術を教える立場ではない) の役割が担えるように、ゼミで練習を重ねている。この勉強は将来、小学校や幼稚園などでの教員希望をしている学生には授業進行の勉強にもなっている。

このように、私たちは「美術館」という場で子どもと関わるなかで、子どもにとっての「美術館」という場や「美術館にいるお兄さんお姉さんたち」という人々の位置付けに、たいへん興味をもった。子どもたちは日常では小学校という世界で、毎日の生活時間を同じ友達と顔を合わせ、同じ顔触れの先生方と過ごす。そこには、日常生活をする中で人間関係やそれぞれのキャラクターが形成される。しかし、子どもたちは「美術館」という場に来ると、そこは非日常となり、そこにいる勅使河原や学生たちは、子どもたちにとっては非日常の人たちなのである。すると、始めはほとんどの子どもたちは「美術館」という場や私たちに緊張したりとまどったりする。しかし、私たちが子どもたちと美術作品を間に入れて対話することによって、お互いに「非日常」を共有する仲間になることができるのである。

実際に子どもたちと小磯美術館で作品を前にして、対話型鑑賞方法を行ったり、絵を描いたりする場を共にすると、さまざまな興味深い発見がある。同じ作品を親子で鑑賞した際には、ファシリテーターの導きによって、お母さんと子どもが対等に意見を対立させてみたり、子どもはお父さんが絵を描くのを初めて見たり・・といったことが数多く起こる。一緒に住んでいる家族同士でも「美術という非日常」の場では、思わぬ関係の変化が生じるのである。このような体験をした彼らはまた、日常の家庭にもどるが、そこに戻った彼らは、確実に以前とは異なっているはずである。また、美術館に来館する子どもたちにとっては、美術館で「非日常のお兄さん、お姉さん」が自分に視線を注いでくれることは、植物に太陽の光が注ぐような栄養があると思われる。つまり、子どもは自分が初めて出会う作品との出会いや驚きの言葉を受け止めてくれる人がいることは、心地よい非日常経験となる。

私が神戸大に赴任して6年がたち、小磯美術館と関わらせていただくようになって、5年程がたつ。美術館に外部者が関わることは、作品のセキュリティや来館者とのトラブル防止などの面からも、センシティブな面が多数ある。しかし、私たちのゼミでは美術館からの信頼を真摯に受け止め、来館する子ども達にとって、美術との出会いをファシリテートできるよう、今後も研鑽を積みたいと考えている。

Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:14