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附属小学校との共同研究 ~研究者と実践者の相互貢献~


坂本 美紀

(心身発達専攻、人間発達論講座)

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授業場面における実践者
と授業サポーターの協働

本学発達科学部附属住吉小学校では、大学との連携によるプロジェクト型共同研究が多数行われている。筆者はそのうち、ITを活用した知識創出型授業のデザインにかかわるプロジェクトに、2003年度より参加し、メンバーの1人として、協調学習支援環境のひとつであるKnowledge Forumを利用した理科および総合学習のカリキュラム開発にかかわってきた。これまでに、理科の単元では、溶解・結晶、燃焼、酸、電磁石を、総合的な学習の時間では、遺伝子組み換え食品問題や電力問題 (原子力発電) を扱うカリキュラムを開発し、実験授業の成果に基づきカリキュラムの改善を行うデザイン研究を行ってきた。

大学と附属校との共同研究自体は、それほど珍しいものではない。当プロジェクトの特徴は、研究者と実践者が、対等の立場で実践コミュニティを構成している点にある。学習科学・科学教育・情報教育など多様な専門性を持つ研究者メンバーと、附属校の教師が緊密に連携し、成果評価を含む全般的な授業デザインにかかわっている。この実践コミュニティでは、研究者と実践者との頻繁な対話に支えられて、授業の立案と計画、実施、評価、そして授業の改善へと繋がるサイクルのあらゆる側面で、研究者がもつ学際的な理論と教師の実践との融合が見られ、しかもそれが年度を超えて継続している。研究者と実践者の協働の、貴重な成功例と言える。

成功の要因は、学術情報を教育現場へ提供・還元しようとする研究者メンバーの姿勢だけでなく、提供された理論やテクノロジを生かしてよりよい学習環境を創出していこうとする附属教員の努力に依拠する部分が大きい、と筆者は感じている。研究者側が理論を元に提起したアイディアを、附属教員の方々が、豊富な実践経験と児童理解に基づき、具体的な授業計画や授業実践、評価テストへと現実化して下さるのを、これまで何度となく経験してきた。小学校をフィールドとしている以上、中には実現が困難なアイディアもあったと思うが、先生方の手腕はいつも見事なものだった。授業サポーターとして参加した学生・院生も、授業立案や授業実践の場に継続的に立ち会う経験を通し、有形無形の影響を受けた。そういう意味で、この実践コミュニティには、研究者の社会貢献と同様に、実践者の学術貢献がある。筆者自身、ここからどれほど大きなものを得たか、計り知れない。プロジェクトの研究成果を学会等で発表するにあたって、附属の先生と、原稿やプレゼンのドラフトを交換し、意見を交わしていく際も、こちらが研究者として貢献できる部分がある一方、(発表の技量等を含め) 先生方から学ばせていただく部分も多かった。

本稿で取り上げた事例は、大学関係者の社会貢献というより、研究者と実践者との相互貢献の成功事例といえよう。

Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:14