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発達相談という「新しい仕事」 ―発達研究と発達支援総合職


木下 孝司

(教育・学習専攻、人間形成論講座)

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発達研究と発達相談、保育実践をつなぐ試み

私は、院生時代から細々とではありますが、発達相談という仕事を、保健所、保育園、通園施設などでさせていただいています。発達相談は、子ども・青年の発達を可能なかぎり十分に保障するために、その子自身がどのような発達的力と願いをもっているのかを、発達をめぐる諸条件との関連で明らかにし、一人ひとりの発達への展望を、父母・教師・保育者らとともに共有していく営みです。

1960年代、障害児の教育権保障などに取り組んでいた発達研究の大先輩たちは、まったくの手弁当でこの仕事をいくつかの自治体で始めます。子どもの発達を保障する取り組みは、社会全体が責任をもつべき公共的性格を有するもので、その後次第に各自治体で定着していきます。発達相談は、人々の子育てへの願いや発達要求によって“仕事起こし”された「新しい仕事」といえます。心理学や教育学など特定の研究分野に留まらず、発達科学の成果を総合することで可能な「発達支援総合職」ともいえるでしょう。

直接的には、子どもの発達や子育てに悩みをもつ親御さん、「気になる子ども」に対する保育で悩む保育者の方々とお話をすることが、私にとって発達相談の基本的な仕事となります。子どもの発達をアセスメントするということもしますが、いつも心がけているのは、保護者や教師・保育者がその子の内面を想像し、子どもたちの「苦労」をともに実感できるように、面談場面や保育場面における子どもからのサインに目を向けてもらうことです。問題や弱さの指摘をしても、子どもの苦労を感じ入るおとなの精神的余裕や遊び心は生まれません。

そしてもう一つは、保護者や教師・保育者のがんばりを見つけて「すごいね」と伝えることも忘れないようにしています。現在、「自己責任論」の名のもとに、「もっと“完璧に”」という圧力が増して、多くの養育者が自信をなくし、発達保障の主体になれない事態があるように思います。それに対して、保護者や教師・保育者が孤立せず、「安心して悩める」場を作っていくことも公的責任であるし、そうした組織力は発達相談員にとって不可欠なものです。

発達相談員はまだまだ常勤職としては確立されていません。そうした中で、子どもの発達を観る目を鍛えた大学院修了生の中に、発達相談員として活躍し始めた方も出てきました。私自身、現場にいく時間の確保が難しいという悩みがありますが、子どもの発達に関する研究と支援に情熱をもつ学生・院生の皆さんに、あれこれと伝えていくことが一番の社会的責務と感じております。

Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:13