海外研究者とのささやかな交流の一端
中村 和夫
(人間発達環境学研究科 人間発達論講座)
子どもたちが描いた家族の絵
おおげさな研究交流ではなく、海外の友人との私的な研究交流の話です。その友人はロシア人女性で、名前はソローキナさんといいます。1990年に京都で開催された第22回国際応用心理学会に出席するため来日したのが機縁で、以来、今日まで20年近い交流が続いています。
ソビエト連邦の崩壊後に、私は自分のテーマである「ヴィゴーツキーの心理学理論」の研究のために、モスクワにあるロシア科学アカデミー心理学研究所に2度短期留学をしています。そのときに、宿舎の確保から始まり、つたない私のロシア語の添削など、生活の多方面でずいぶんとお世話になりました。
ソローキナさんは、ソビエト時代にはあまり表立つことのできなかった心理臨床の分野の研究をしていて、主に小学校の現場で、心にトラブルを抱えた子どもの心理相談に携わっています。上から急激に市場経済を進めてきたロシアでは、子どもの生活や教育を取り巻く社会環境が大きく変化し、子どもの心に様々な問題をもたらしています。ロシアでは、いま、この種の心の問題への対処が強く求められており、ソローキナさんは、多様な描画投影法と子どもとの対話を組み合わせた診断法により、問題の実践的な解決に取り組んでいます。
そのソローキナさんが、2005年にとても興味深い本を出されたので、昨年 (2007年) の春に、思い立って、日本語への翻訳を提案したところ、日本で出版されるならば、大幅に書き直したいとの希望が表明され、夏には追加・補足の書き下ろしの原稿が届けられました。もうひとりのよき共訳者を得て、年末には翻訳を完成し、この春に日本で出版される運びとなりました。日本でも普及することを念じつつ、その本を紹介して本稿を閉じることといたします。
- ヴェ・ヴェ・ソローキナ著 (中村 和夫・伊藤 美和子 訳) 『小学生の心のトラブル ―描画投影法による診断と治療―』 (新読書社、2008年)
Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:11