本ウェブサイトは2012年3月末をもって閉鎖いたしました。このページに掲載している内容は閉鎖時点のものです。[2012年3月]

地質ボランテイアの活動


田結庄 良昭
(人間環境学科 環境基礎論講座 地質学)

写真
地域の方との現地調査

地質ボランテイアは、1995年の兵庫県南部地震の時に、地質学を専門にしている学校の教師、民間の地質コンサルタント、大学その他の研究機関の職員が個人の資格で、専門を生かしたボランテイアを行いたいと結成された民間団体です (代表、田結庄良昭) 。兵庫県南部地震発生から2ヶ月近くたってもほとんど手がつけられていない地盤災害の現状に地元で地質を専門にしている者として、被災住民とともに調査を行ってきた。調査は、依頼があれば、1週間以内に調査を行い、文書で地盤災害の現状とその要因を報告し、対策についても助言する。なお、この間の費用は無料で行うという活動である。当初は谷埋め埋土地など被災した地盤調査が主であったが、後半は復興によるマンション建設に伴う周辺の被災住居や地盤への影響調査が激増した。実際、このような場合、相談していく窓口が全くないのが実状である。この間の活動を紹介したのが「あなたもできる地震対策」 (1995) である。

さて、ごく最近、2006年の活動を振り返ってみよう。最近の依頼は都市再開発に伴う高層マンション建設が多い。以下に、その活動の実例を列挙してみる。

大阪府南部の駅前の高層マンション建設問題

近隣住民からの依頼で調査を行うと、その場所は第1級の活断層である上町断層の南方延長部にあたること、地質は約6000年前の縄文海進時の軟弱沖積粘土層からなることが判明した。特に、上町断層は大阪で次に起こる直下型地震として、要警戒の断層で、本来的にはこの断層付近では建築物を建てることは不適である。しかし、断層が走っている確固たる証拠は、ボーリングを掘って検証するしかない。そこで、次に、依頼者に建設計画の説明会と各種資料の公表を助言した。その結果、ボーリング資料などが公表された。会社の説明資料は専門的で、ボーリング資料などの解析には専門の知識を必要とする。それら資料が我々の所に送付されてきた。それをみると、明らかに断層ガウジ (断層運動で岩石や地層が粉砕され粘土状になったもの) を挟んでおり、建造物の端をかすめている。しかも、この断層ガウジを含む破砕帯は規模が大きい。また、そのため地下水位も高いことが判明した。建造物の建築には全く不向きである地盤である。そこで、そのことを書面にし、建設会社に質問状も送付した。このことは、新聞でも取り上げられ、事態は好転するかに思えたが、会社は断層にも十分耐える工法をを取ることなどで、建築計画を自治体に提出した。現在の法律では、法律に違反していなければ、自治体に建設を取りやめる権限はない。その後の事態はご想像の通りである。

写真
危険な斜面の開発
神戸市灘区の土石流危険渓流区域のマンション建設

依頼者から電話が入り、早速状況を聞き、調査に入った。この地域は土石流危険区域に属し、しかも、特に危険な渓流で、我々の調査でも、砂防ダムの多くはすでに砂に埋まり満タン状態で、しかも河川には兵庫県南部地震で斜面崩壊した土砂が多量に河川に堆積し、もはや土石流を止められない状況にある。この河川は行政側も危険を認識しており、すでにワイヤーセンサーが設置されている。土石流危険渓流区域に指定されているので、開発にあたっては、県知事の許認可が必要なはずである。さらに、驚いたことに、現地で調査を行うと、第1級の活断層がが走っており、かなりの幅の破砕帯が存在していた。すでに、山は削られ、基礎工事に入っていた。以上の調査結果を文書にし、依頼者に送付した。しかし、すでに工事は進んでおり、大変険しい状況にある。地震を経験した地域で、このような開発が各地で進行している。防災の前にこのような危険地域の開発を止めることがいかに大切か震災地域では知られているのに事態は進行している。

神戸市中央区の六甲山山麓の活断層地域でのマンション建設

依頼者からの指示で現地調査を行った。この地域は急傾斜崩壊危険区域にある地域で、そもそも開発にあたり、県知事の許認可が必要な地域である。調査の結果、活断層である諏訪山断層がかすめそうな地域である。実際の調査では本体の断層はかろうじてはずれているものの、副断層があり、やはり破砕帯が見られた。しかも、斜面は風化したもろい花崗岩からなっており、一部では湧水がみられ、そのままではマンション建設に伴い、周辺の被災した住宅に大きな影響を与える懸念がある。このような状況を文書にし、依頼者に渡した。その後、この地域は依頼者等の熱心な運動で一時は工事は見送られていたが、また、工事が再開されそうである。

以上が、2006年の活動であるが、宝塚周辺を中心に同じような問題が多く生じている。一部では、うまく行政とも話し合いが行われ、一部河川改修が行われるなど前進が見られるが、復興と称して危険地域での開発が進行している。ますます、専門知識を生かした集団によるボランテイアが要望されていると言える。

Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:21