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演奏会の復元 ~青野原俘虜収容所「慈善演奏会」の再現コンサート


田村 文生

(人間表現学科 人間表現論講座 音楽)

写真
演奏会の様子

文学部公開講座「異郷にいきること」の一環として行われたレクチャーコンサート「青野原俘虜収容所の音楽会の再演・・・もう一つのバルトの楽園」の音楽監修・指揮を担当した (2006年10月28日 神戸大学瀧川記念学術交流会館1階ホール)。前年に行われた文学部地域連携センターと兵庫県小野市との連携事業、「ふるさとをしのぶ音楽会」から引き継がれたこの演奏会は、第一次世界大戦中 (1919年) に捕虜となったオーストリア兵によって組織された「慈善演奏会」を再現する試みであり、当時は兵庫県加西市・小野市にわたる青野原俘虜収容所にて行われたという。

演奏曲目
  • トマ/歌劇「レーモン」序曲
  • ヴュータン/夢
  • ワーグナー/楽劇「タンホイザー」より巡礼の合唱
  • シューベルト/軍隊行進曲第1番

さて、上記の如く当時演奏された曲目こそ判明しているものの、演奏会を再現するにあたって必要な資料 (例えば楽器編成の詳細など) は、まったく残されていなかった。例えば、ほとんどがオーケストラを主体とた原曲を軍楽隊の楽器編成に編曲して演奏されたであろうと考えられるのに対し、ヴュータンの「夢」だけは原曲がヴァイオリンとピアノの二重奏である。例えば捕虜の中に、ヴァイオリンを弾く者とピアノを弾く者が居て、軍楽隊の演奏の合間に二重奏が挿入されたと考えられる一方、収容されていた捕虜が演奏可能な楽器に合わせて (あるいは、調達可能であった楽器に合わせて) 編曲された、という可能性も捨て切れない。いずれにせよ推測の域を出ないのだが、この作品に関しては、他の作品の編成に合わせ、研究室所属学生の協力を得て管楽合奏用に編曲し、その他の作品は市販の編曲楽譜を当日の編成に合わせて私が補筆、演奏会にかけることとなった。「軍楽隊」を模した管楽合奏団は神戸大学交響楽団から募った25人で構成、夏休み明けから週1・2回のペースで練習を重ねた。メンバーの半分以上が今回初めての参加となったため、音楽作りは実質的に全くのゼロからの出発であった。普段オーケストラの管楽器パートを演奏している彼らにとって、管楽のみの合奏を少人数で演奏することは、体力的・精神的にプレッシャーとなったようだが、練習場所の悪条件 (猛暑!) と指揮者の怒号 (!?) にもかかわらず学生達は熱心に取り組み、徐々に練習の成果が現れていくこととなった。当日の演奏は、心地好い緊張感と高揚感を伴った熱演が聴衆に伝わったのであろう、拍手の大きさにそれが表れていたのではないかと思う。今回活躍の神戸大学管弦楽団は、定期演奏会を活動の中心とし、その他は外部から依頼された小規模な公演を行っているという。たいていの場合、学生の課外活動は、大学の教育・運営組織とは別のものであるという感覚があり、事実そうであろう。学部の垣根を越え、志や趣味を共有する者達が交流するということが課外活動の魅力でもあり、学生生活にとって貴重な時間でもあろう。今回 (前年の演奏会に関してもまた)、その課外活動が大学の社会貢献事業にコーディネイトされたことによって、公開講座が華々しく完結し、好評を博したことは、「神戸大学発」の今後の事業に一つの方法を提示したように思う。「アメフト」や「酒」のような神大のブランド (それらだけではないだろうが・・・) も必要であろう。しかしまた一方で、学生と大学の両者が主体的な役割を担いつつ地域社会との接点を持つということも、「教育」と「社会貢献」の性格を兼ね備えた一つの方法であるように思う。既にあるような個々の研究室レヴェルでの関わりと並行し、課外活動での学生の組織力と、大学の持つ知的財産が有機的に統合されるとなれば、より大規模で効果的な情報発信となるであろうし、大学の新たな側面として、地域社会に歓迎されるのではないだろうか。

公開講座参加者、また、新聞等でこの公演を知り、ご来場頂いた聴衆の皆さんの暖かい雰囲気を背中に感じつつ、約90年前の演奏会を現在に再現したという時間的な広がり、再現された音楽が神戸市と小野市の聴衆に響いたという空間的な広がり、そして学生-大学-地域社会という繋がりも認識した機会であった。

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Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:28