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小学校理数科授業改善プロジェクトを通じて


高橋 正

(人間環境学科 環境基礎論講座 数学教育学)

写真
招待時の様子

私はJICAの教育プロジェクト専門家として、エジプトの小学校理数科授業の改善に関する仕事に従事した。この仕事は国際協力としての社会貢献である。

私が専門家として携わったのは、エジプトの小学校算数の教師用ガイドブック (指導書) の作成である。仕事はカウンターパートと称するエジプトの数学教育の専門家 (多くは大学教員) と協力し、学校で行われている授業の視察、それに基づく授業改善の提案、教師用ガイドブック作成の順で進めた。

私が最初戸惑ったのは、カウンターパートの勤務時間であった。カウンターパートは、10時頃に来始める。しかし30分しても1時間しても全員はそろわない。来たメンバーに尋ねてみると、いろいろな理由を言って遅れるメンバーがいることが分かる。そうこうしているうちに紅茶売りの男が事務所に入ってきて紅茶を売り出す。その紅茶売りは、私が仕事をした研究所の職員ではなく、外から入ってきた男である。セキュリティの観点からすれば、なんとも危ないのであるが、それも習慣であり、一概に悪いとは言えない。

誰が居ないかを確認しているうちに、さっきまで居たメンバーが居なくなったりする。居るカウンターパートに尋ねると、彼 (もしくは彼女) は他のプロジェクトの仕事もしているのでちょっとそっちに出かけたということも多々あった。そういう場合、15分で帰ってくると言って行くことが多いが、15分というのは、ほとんどの場合2時間程度であった。場合によっては、その日は帰ってこないこともあった。

メンバーの点呼を繰り返しているうちに正午になってしまう。そうすると、カウンターパート達は、今度は家に帰って昼食をしたがるようになる。これをするともうその日は戻ってこない。居るメンバーに打ち合わせをするから帰らずに居るように言うが、事務所内の見えない角度に消えたメンバーはそのまま帰ってしまう。

日々、このような状態のなかで、辛抱強く仕事のスケジュールを話し合った。午後2時になると研究所内は閑散とする。ほとんどの職員が帰るのである。日本的な仕事の仕方からすれば、始めるに始められず、気がつくと終わっている状態である。

しかしエジプト人が怠け者であるわけではない。気候による生活習慣、エジプト公務員の勤務時間など、エジプトでは、これが普通の状態であった。仕事は基本的には家でするのである。したがって、カウンターパートに仕事を頼むためには、彼らが家でする仕事を作りそれを詳しく説明することが必要になる。もちろん、自分もそのスタイルにあわせ、持ち帰り仕事を計画的に遂行しなければならない。

彼らのスタイルを理解し、その上で自分の仕事の結果を納得してもらうためには少々時間がかかる。何週間かそれを経ると、彼らとの信頼関係ができる。エジプト人は仕事の仲間を家に招待することが多い。家族を紹介し、家族とも知り合うことが相手を信頼する重要な要因となる。私も多くのカンターパートの家に招待された。写真は、その一例である。写真のなかで私が着ているのはガラベイヤというエジプトの着物である。湿度がほとんど0%であり、厳しい直射日光のあたる国では最適な衣服である。どの国にも、その国にあった衣服があるように、数学教育の指導法や教材も様々な形式がある。それを理解し、押しつけではない国際協力として、相手国で役立つ教育プロジェクトを日本はもっと行わなければならないと感じた。

Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:28