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新しい人材教育の試み ―「神戸大学COOP教育洋上事前講義2006」に参加して


吉永 潤

(人間形成学科 教育・学習論講座 教育学)

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実施の様子

近年、大学生のインターンシップ参加は多数に上る。しかし、昨今のインターンシップが、産学の有機的な連携による人材育成の場となっているか、大学が組織的な取組みを行いえているか、参加学生が目的意識を持って学ぶ場となっているか、については疑問が発せられている。このたび、神戸大学連携創造本部のコーディネートのもと、工学部、海事科学部、発達科学部の理系・文系各学部が参加して行った「神戸大学COOP教育洋上事前講義2006」 (実施: 2006年9月25、26日) は、上記のような問題を克服し、総合大学のメリットを生かした独自の人材育成プランを策定するための試行であった。

企画内容は次のようなものである。長期インターンシップ参加を直前に控えた工学部学生をコアとして、海事科学部、発達科学部の学生を交えた混成チームを4チーム組織した (参加学生数は全23名)。この各チームはそれぞれ「企業」として、工学部学生の提供する技術シーズを元にした商品開発タスクが課せられた。学生諸君は、海事科学部の練習船「深江丸」に乗り組み、一泊二日で商品開発のためのディスカッションを行い、2日目には、海事科学部に移動して商品提案のプレゼンテーションを行った。船内には、教員スタッフに加え、インターンシップ受け入れ企業9社の社員も乗り込み、学生の支援に当たった。この洋上企画以前にも、文科省専門教育企画官など複数の講師を招聘し、日本の科学技術人材育成政策の動向などオーバービュー的レクチャーを行っている。

今回、洋上という環境を選んだのは、船上での参加者の一体感の増進という点とともに、船の運行自体が高度の組織性を持つ活動であり、そこに企業とのアナロジーを感じさせるという目的があった。

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実施の様子

主に企業技術者の育成を目指した今回の企画に参加した発達の文系学生の役割は、次の点にあった。すなわち、予想される理系学生諸君の技術トップダウン的、専門家発想に対して、ユーザーサイド、素人からの意見をぶつけ、独善性を排した社会的に評価されうる商品、端的に言えば「売れる」商品を開発することである。また、発達教員である私の役割は、そのディスカッションのプロセスを支援して活性化することにあった。

参加学生の感想をいくつか紹介する。「市場でのニーズ、スタンダードを意識するという考え方が、目からうろこが落ちる感じだった」、「自分の言葉が『自分の枠』とか『理系』の言葉であり、すべての人に通じるという錯覚を打ち壊せた」 (以上、工学部)、「『知らない』『分からない』ということも意味があることを学べました」「専門家の話には必ず、何らかの落とし穴がある、という前提をもって話をする事 (の意義を感じた)」 (以上、発達)。

このように、理系参加者は、社会一般の立場から自己の技術開発を見つめ直す視点を獲得すると同時に、文系参加者も、科学技術への市民としての評価の目を持つことの重要性を学んでいる。何より、今後ともこのような企画を続けてほしいとの学生の声が圧倒的であったことが、我々の何よりの収穫であった。

Updated: 2010/07/23 (Fri) 14:22