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複合的芸術表現の可能性 ―その前哨戦!「ジャコメッティ・マニア」―


岸本 吉弘

(人間表現学科 人間表現論講座 絵画表現)

写真
関 典子 (撮影: ヤン・ソナ、於兵庫県立美術館)

社会貢献の為の社会貢献などは当然存在しない。我々表現者はあくまでも優れた表現 (作品) を社会に供給することに、全てが内包されているといえよう。

私が属する人間表現学科は、私が専門とする絵画表現のみでなく、彫刻やデザインなどを含む幅の広い美術的表現、また音楽や身体表現など、と「表現」というキーワードのもとに様々な表現形態が混在化している。これが人間表現学科の特徴といえ、また、目指すべき教育内容の1つとして「複合 (総合) 的芸術表現の実践」が挙げられるのである。私は以前より専門の絵画のみならずに、横断的なこうした分野の表現実践に、浅からぬ関心があった。

そうした中で、禁欲性と官能性を併せ持つ稀代の舞踊家である関典子氏との出会いがあった。そして彼女とのコラボレーション案は足早に進み、またその過程のなかで実施を試みたのが、この「ジャコメッティ・マニア」である。

この企画は兵庫県立美術館で昨夏に行われた「アルベルト・ジャコメッティ展 矢内原伊作とともに」の関連したアートフュージョン事業として、2006年9月3日に2度の公演を実施したダンス・パフォーマンス企画である。振付出演を関典子氏、また音楽提供を田村文生氏 (人間表現学科)、そして私が舞台監督や広報などを含めた舞台裏を担当した。

ジャコメッテイの針金彫刻のイメージから伝わる存在感、緊張感、孤独感などを、独自のセンスで関典子氏がキャッチし、振付に反映させた。それに田村氏の現代音楽が呼応し、安藤忠雄氏の静謐な建築空間において、ジャコメッテイをキーワードとしながら身体表現、音楽表現が、見る観客をも巻き込む形で、その場の空間自体を別次元へと異化させたのである。ダンスの迫力、音楽の充実も然ることながら、それらが複合的に呼応しあった1つの表現形態へと昇華した瞬間が、そこにはあったのである。

当日の観客数も400人近くに達し、通常の美術館アートフュージョン企画の枠組みを遥かに越えた成果として、産経新聞等でも大きく紹介された。当然、本企画は美術館スタッフの多大なご理解とご協力の賜物であり、また、ギャラリー島田の島田誠さんのご支援、また裏方で尽力してくれたゼミ学生達。これらを無くしては実現化しなかったであろう。改めて感謝の意を表したい。そしてこの企画に中核的に関わった、舞踊家、画家、作曲家達は、早も次のコラボレーション企画の実現へと舵を取り始めている。願わくはこの3者が世界的な存在とならんことを。

写真
関 典子 (撮影: ヤン・ソナ、於兵庫県立美術館)

Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:25