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境界領域研究における貢献とは?


武井 義明

(人間行動学科 人間行動論講座 健康・スポーツ科学)

写真
測定機器

私は昭和61年4月に山口大学教養部に赴任した。当時の保健体育科はそれまで動物実験を主体としていたが、教養部改革が叫ばれる中、人を対象とする実験系の研究者を必要として採用が決まった。縁あって山口大学医学部第二内科の先生を紹介され、当時導入されたばかりのホルター心電計という24時間連続して心電図を記録する装置を用いて心臓の拍動間隔 (心拍変動性) の時系列データをパソコンに取り込んでデータ解析することを始めた。その後神戸大学の教養部に転任したが、このことが現在の研究に繋がっている。

大学教員になりたてのころはまだパソコンといってもMS-DOSの時代であり、学生時代にはコンピューターとは無縁の状態だったのでまずはMS-DOSの理解から始まってプログラミングについても独学で習得しなければならなかった。研究は心拍変動性の時系列データを周波数解析するものであったが、信号処理についても独学で試行錯誤の連続であった。研究対象の性質上発表を日本ME学会 (現日本生体医工学会) で行った。この学会は臨床医学 (Medical) に基礎を置く研究者と工学 (Engineering) を基礎におく研究者で構成されており、いわゆる境界領域の学会といえる。もちろん私の立場はそのいずれでもない。この学会での発表において工学系の先生から「それは研究と言えるのか?」という激しい罵倒を浴びながら、臨床医学系の高名な先生からは逆に教えを乞うという奇妙な経験をし、当初自分自身混乱してしまった。最近になってやっとその理由が咀嚼できるようになったと感じている。それはたぶんオリジナリティに対する工学系と臨床医学系の哲学の違いによるものなのだろう。工学では構成するパラメーターの一部を変えて実験した報告などは一種の演習問題であり、研究とは捉えることができない。それは物を対象とする学問なのである種当然だとは思えるが、対象が生物となるとその強い非線形性のため要素還元的な結果は全く期待できない。したがって、臨床医学においては膨大なデータを整理していくような人文科学に近いアプローチをとることになる。それほど研究成果をあげきたわけではないのだが、それでも継続していくうちに日本ME学会奨励賞の論文審査委員を務めるという貴重な経験をさせていただいた。境界領域の研究ではそれぞれの研究分野の寄るべき基盤を尊重することが大事である。今後とも境界領域における研究に貢献がなせるよう研鑽を積んでいきたいと考えている。

Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:28