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子どものシグナルに応えるために


廣木 克行
(人間形成学科 発達基礎論講座 臨床教育学)

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著者近影

私の専門は臨床教育学です。主に不登校の理解とその克服を目指した教育と教育相談の研究をしています。この研究で大切にしてきたことは、学校に行きたくても行けない不登校の子どもとその親に直接学ぶことです。それは原因やきっかけを探るためではなく、不登校に陥った子どもの状態を詳しく聴き取り、それが意味することを解明するためです。この研究方法をご理解いただくための一例として、不登校の子どもの親たちに対する教育相談の様子をご紹介します。

私は不登校の相談活動を長い間、同じ場所で行ってきました。長崎、兵庫、愛知、埼玉にある「不登校の親の会」です。親たち同士が話しを聴き合うピアカウンセリングの場として「親の会」は定期的に開かれています。そこで親たちは同じ苦悩を経験している者同士の共感に満ちた話し合いを通して、日頃感じている孤立感から解放されて不安が和らぐ経験をしているのです。

その場を訪ねて時々グループカウンセリングをするのですが、まず何人かの親たちにわが子の様子を話してもらい、疑問や不安を率直に出してもらいます。それをしっかり聴き取った上で子どもの状態が物語る心理的葛藤の意味について気づいたことを話します。その話しを何回か聞いて子どもの葛藤に意味のあることが見えてくると、親たちの多くは自分が自分自身の不安に囚われていたことに気づき、子どもの苦しみに関心を向けるようになります。そして身体症状や昼夜逆転にも深い意味があることを知ると、子どもをありのままに受容できるようになり、子どもの苦悩克服を支える援助者へと変っていくのです。

このような相談活動に基づく研究の成果を論文で発表するだけでなく、不登校についての理解を広げるために直接社会に還元する活動も必要だと考えてきました。そのために例えば「児童館」が企画する社会教育や児童福祉の関係者の研修を担当してきましたし、教育委員会や私立学校連盟が主催する教員や管理職に対する研修も担当しています。さらに各地で開催される「子育て講座」に講師として参加し、子育て不安の只中にいる親たちに、子どもの見方や子育ての基本について話しをするのです。

不登校の理解とその克服過程を明らかにする教育研究は、それ自体が一つの社会的実践と言えますが、そういう子どもの苦しみへの誤解や偏見を取り除く活動もまた、不登校の子どもと親の苦しみを軽減する上で非常に重要な支援になるのです。

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講演風景

Updated: 2010/07/23 (Fri) 14:21