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生活者に視点をおいたテキスタイル研究


井上 真理

(人間環境学科 環境形成論講座 衣環境学)

写真
研究室の様子

毎日の生活に欠かせない衣服は、持ち運びできる環境と呼ばれています。衣服は人間が本来備えている生理的な機能をカバーするとともに、深海から宇宙にまで行動範囲を広げることを可能にしました。私の研究室では、衣服、寝具、カーテン、皮革や布製の椅子等のテキスタイル (繊維製品)、また皮膚そのものを対象に、着心地、寝心地、使い心地を評価する研究を行なっています。人間が主観的に評価している触感を、機械で測定して得られる力学特性や表面特性を用いて客観的な数値に置き換えるのです。加齢とともに皮膚特性も変わってきますから、人間の発達にあわせた客観評価の開発も大切です。人の感覚を数値に置き換えることで、人を主体とした品質の高い繊維製品を、伝統的な天然繊維から先端技術としての高機能繊維まで含めた有限な資源を利用して、適切な用途に応じて設計することが可能になると考えています。

安価な繊維製品が多く輸入されるようになり日本の繊維業界が厳しい状況におかれるなかで、日本独自の付加価値として風合いや機能性に特化した繊維製品が多く市場に出回るようになりました。消費者の興味は高まり、多くのヒット商品も出ています。その一方で繊維製品に対する消費者からのクレームは多岐にわたります。表示を含む品質評価に対する考え方は大きく変化し、複合素材や機能性繊維等の評価方法としてJIS法のみでは消費者の要求性能に対する評価が不十分な状態になってきました。製品の品質保証に対する製造、販売側の責任がさらに重要になっていることから、わが研究室では、製品を製造している企業と共同研究により、人の感性に合ったものづくり、品質評価基準の設定を行っています。これまでストレッチ性能を付与した衣服、体操服、寝具、成人用の紙おむつ、生理用品、自動車シートなどの研究にかかわってきました。また、兵庫県工業技術センターと地元の企業と共に産官学で、製品企画に供するサンプル作成を無駄なく進めるためのシステム作りに取り掛かっています。繊維関連の学会においては編集委員、企画委員を通して、大学での基礎研究、応用研究をはじめ、研究に基づいた企業の取り組みを伝える企画に関わり、地域では市民講座での講演なども行っています。

自分自身が生活者、消費者であることを踏まえ、生活者の視点を忘れないものづくり、生活者と企業の架け橋となるような研究に今後もかかわっていきたいと考えています。

Updated: 2009/09/17 (Thu) 10:23